1128 / 2012

第1128話

「さすがに代わりの人と施設を用意するんじゃないか? 神々だって、怪我や病気を治せなくなったら困るだろう?」 「だといいけどねぇ……。正直、神々の考えは私にはわからないから」  暗に、「新しく作るかどうかはわからないよ」と言っていた。そんなことを兄の口から聞くと、心の底から不安が沸き起こってくる。  不安のあまり、気づいたらこんなことを言い出していた。 「あの……兄上……」 「うん、何だい?」 「もし俺が、代わりの施設がない時に獣化してしまったら……その時は、潔く殺してくれないか?」 「……はっ?」 「わけがわからなくなって、兄上に迷惑をかけたくないんだ。ピピを襲うのも嫌だ。そんなことになるくらいなら、ずっと棺に閉じ込められている方がいい」  空腹のあまり、獣化した兄がピピを襲ったこと。それでも我慢しきれず、自分の腕を切って貪り食っていたこと。思い出す度にぞっとする。獣化したら誰でもああなるのかと思うと、怖気で背筋が凍り付いてしまう。  ――自分で勝手に腕を切るならまだしも……。  万が一見境がなくなって、兄やピピを殺してしまったら取り返しがつかない。特にピピは棺に入れられないので、死んだらそのまま復活できないのだ。  そんなことになるくらいなら、ずっと棺に閉じ込められたままの方がまだマシである。 「……ホント、お前は変なところで急にネガティブになるよね」  と、兄がやや呆れながら言う。 「大丈夫だよ。もしお前が獣化しちゃったら、私が何とかしてあげる。新しい施設ができていなくても、その中で行われていた治療法を参考にお前を治してみせる。だからお前は心配しなくていいんだよ」 「……本当か?」 「もちろんさ。万が一お前が理性を失って暴れ回ったとしても、私はそれを抑えられるくらいの力は持ってる。だから安心して」 「そうか……そうだよな……」  また余計な心配をしてしまったみたいだ。  何かあっても、兄に任せておけば間違いはない。いざという時は必ず助けてくれる。そう信じられる。

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