1132 / 2012
第1132話
その後、ゆっくりめのペースで山頂まで登り、景色を堪能しながら昼食をとった。
この山は初心者向けなので凶暴な獣も出てこず、高低差も緩やかなのでちょっとしたピクニック気分だった。ピピも喜んで、持参したサンドイッチをむしゃむしゃ食べていた。
「ところでお前の方は、ランクどのくらい上がったの?」
唐突に兄が尋ねてくる。
「一ヶ月もあったんだから、当然いくらかは上がってるでしょ? 三桁の真ん中くらいにはなった?」
「あ、いや、それは……まだそこまではいってなくて」
「ええ? そうなの? でも最低一回は死合いあったよね? 格下が相手だったのかい?」
「いや、同等くらい……。しかもギリギリで引き分けたんで、ポイントもあまり入らなかったんだ」
正確には、相手は自分より少し格下、ギリギリで引き分けたのではなく敗北寸前で時間切れになったので、ポイントが入らなかったどころか危うくランクダウンするところだった。
さすがにこれは正直に言えないので、曖昧にごまかしてみたけれど……。
――兄上のことが気がかりで鍛錬にも死合いにも身が入らなかった……なんて言ったら絶対怒られるもんなぁ……。
言い訳するつもりはないが、獣化した兄があまりに衝撃的だったこと、施設に連れて行かれる際にほとんど拘束状態だったこと、更にはその後の様子を一切知らされなかったこともあって、心配で心配でたまらなかったのだ。
心配のあまり日常生活でもしょっちゅう上の空になってしまい、ピピに「ごはんまだ?」と聞かれてもしばらく気付かなかったこともあった。
当然鍛錬にも身が入らず、死合い中も全く集中できなくて結果が残せなかったのだ。
――これで定期的な連絡があればまた違ったと思うが……施設でやってたことを考えると、連絡なんてできるはずなかっただろうしな……。
そんなことを考えていたら、兄がやや呆れながら言った。
「まったく、しょうがないなぁ。お前との公式死合いはまだ先になりそうだ」
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