1133 / 2012

第1133話

「う、うん……すまない。俺も早く兄上と死合いたいんだけどな……」 「まあいいよ。時間だけは無限にあるんだ。このまま鍛錬を怠らなければ、いつか必ず死合えるようになるさ」 「そうだな……。これからも頑張らなければ」  いろいろあったものの、これでしばらくは大きな事件は起こらないだろう。  また兄と平和な日常を送れると思えば、それだけで嬉しかった。  ――ヴァルハラに来てからも、何だかんだで波乱万丈だったもんな……。  ランゴバルトに殺されそうになったり、巨大狼に喰われそうになったり、バルドルのところに人質に出されたり、ラグナロクが起きたり……そして今は兄の獣化である。  結果的にはちゃんと治って帰って来られたものの、そこまでの経緯はなかなかしんどいものだった。  普通に鍛錬して普通に死合いに出て、シンプルにランクを上げていくという当たり前の生活が思ったよりもできていない気がする。地味に衝撃だ。 「なんというか……何も気にせず、思いっきり鍛錬に打ち込みたいよな……」 「おや、まだ何か気になることがあるのかい?」 「いや、そうじゃなく地味にいろんなことが起こるなぁと。ちょっと平和になったと思ったらすぐまた何かが起きて……。これじゃ集中して鍛錬できないじゃないか」 「まあいろんなことが起きているのは事実かもね。中には巻き込まれ事故みたいな出来事もあったから、そこは運が悪いとしか言いようがない」 「だろう? 俺としてはもっと思いっきり鍛錬して、早いところ兄上に追い付くつもりだったんだけどな……」 「まあそこも、時間だけは無限にあるって割り切るしかないね。生前と違って年齢によって衰えることはないから、そこはあまり焦らなくてもいいかなと」 「そうかな」 「私は、お前と相思相愛になれただけでも十分だよ」  笑いながら、兄が軽く唇を啄んでくる。  された後で気づいたが、視界の端に映ったピピがジトーッとした目でこちらを見てきたので、ちょっと気まずくなった。

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