1136 / 2012
第1136話
今まで、兄が食事を残したことは一度もない。不味すぎて食べられないとか、激辛で舌が壊死したとかでなければ、おかわりは必ずするくらいの大食漢だ。
以前は「そんなに食べて大丈夫か?」と不安になるくらいだったので、こうして完食できなかった皿を見ると「そんなに調子が悪いのか」と逆に心配になってしまう。
――しばらくは様子を見るしかないのかな……でも……。
兄があんな様子だと、こちらも何だか調子が狂う。
獣化は治っているんだろうけど、あまりに落ち込みがひどいようならもう少し積極的に慰めてやらないといけないかもしれない。
それこそ大胆に身体を使うとか……いや、それは最終手段だけど……。
――まあとにかく、明日の朝どうなってるかによるかな……。
とりあえず自分も今日は早めに寝るとして、朝起きたら兄を鍛錬に誘ってみよう。軽く庭をランニングするだけなら兄にもできるだろうし、少しずつでも身体を動かしていけば気も紛れるはずだ。
そう思い、寝間着に着替えてアクセルも寝室に入った。
兄は隣のベッドで、こちらに背を向けたまま静かに目を閉じていた。眠っているのかどうか判断がつかなかったが、気軽に話しかけられる雰囲気でもなかったので、仕方なく無言で自分のベッドに潜り込んだ。
***
翌朝、アクセルはいつもより少しだけ早く起床した。
ベッドから這い出し、まずは水を……と思って何気なく隣に目をやったら、
「……兄上?」
兄のベッドがもぬけの殻になっていた。
ベッドメイクはされていないけど、布団が熱を失っている。どうやら起きたのは、アクセルよりだいぶ早かったみたいだ。
――もしかして……。
アクセルは寝室を出て、一目散にベランダから庭に出た。
思った通り、そこには朝陽に照らされながら黙々と走り込みを行っている兄の姿があった。
――兄上……。
薄い金髪が太陽の光を受けてキラキラ輝いている。この時期、朝は気温がやや低いので、息を吐く度に白い蒸気が立ち上っていた。
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