1137 / 2012

第1137話

 その姿が何故かものすごく神々しく見えて、アクセルはしばらくその場に立ち尽くしてしまった。朝の薄ら寒さも忘れた。 「……あれ、アクセル。もう起きたの?」  こちらに気づいた兄が、汗を拭いながら走り寄ってくる。 「いつもより早いじゃないか。お前も鍛錬するつもりだったのかい?」 「あ、うん……そのつもりだったけど、兄上に先を越されてしまったな」 「まあ、私は今までのツケがあるからね。しばらくは真面目に頑張らないと、元に戻らない気がしてさ」 「それにしては、最初から頑張りすぎでは……?」 「いや、こんなもんでしょ。下位ランカーの時は、朝から晩までみっちり鍛錬してたものだし」 「え……」 「当時はいろんな意味で必死だったからね。それくらいやらないと、上位ランカーを一層できないと思ってて。それでがむしゃらに頑張ってたんだよね。まあ、朝から晩までやるのは逆に効率悪いって気付いてからは、ちょいちょいサボるようになったけど」 「そ、そうなのか……」 「でも、久しぶりの朝鍛錬は気持ちがいいな。なんだかスカッとするよ」 「…………」 「お前も、気が向いたらおいで。一緒に走ろう」  そう言い置き、兄は再び庭を駆け回り始めた。ただの走り込みにしては意外と速度もあり、かつてのスタミナや脚力が垣間見えている。  ――やっぱり兄上はすごいな……。  今更ながら感心してしまう。  それと同時に、自分の鍛錬の温さを反省した。兄に比べたら、アクセルがやっていることなんて鍛錬のうちに入らない。今のままじゃ、追い付けないのも当然である。  兄と同じような実力を身につけるには、兄より遥かに頑張らないといけないのだ。見惚れて感心している場合じゃなかった。  アクセルは急いで部屋に戻り、普段着に着替えて庭に出た。そして軽く準備体操をし、兄の後ろから走り始めた。 「おっと、お前も走り込みかい? どっちが長く走れるか競争しようか」

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