1138 / 2012

第1138話

「どっちって、兄上は俺が走るよりもっと前から走ってただろ」 「まあね。だから、お前が走り終わる時まで私が走ってたら私の勝ちだ」  そりゃそうだ。でも今は朝だから、意地になってどこまでも走り続けるわけにはいかない。朝食も作らないといけないし、その後の予定もある。  とりあえず今は適当なペースで走ることにして、アクセルは庭を大回りで十周した。  途中、ピピが起きてきて隣を並走してきたが、兄も一緒に走っていることに気づいてちょっと不思議そうな顔をしていた。今までの兄だったら、こんなに朝早くから走ることはない。 「フレイン、きょうはアクセルよりはやおき」 「そうなんだよ。何かいつもより気合い入ってるみたいでな。俺も負けてられないんだ」 「アクセル、がんばれ」 「ありがとう、ピピ。これ終わったらご飯作るからな」 「ぴー♪」  そうしてしばらく走り込み、ひとまず朝のランニングは終了することとなった。  結局兄はアクセルが走り終わるまでずっと走り続けており、さすがに無理が祟ったのかぜぇぜぇ息を切らしていた。 「……兄上、大丈夫か?」  汗拭き用のタオルと冷たいハチミツ入りレモン水を渡しつつ、様子を窺う。 「あまり最初から飛ばし過ぎるのもよくないぞ。ペースを考えないとすぐにへばってしまう」 「そう、だね……。ちょっとまだ、ペース配分が掴めてない、みたいだ……」  兄はレモン水をがぶ飲みしつつ、途切れ途切れに言った。 「以前はこれくらいのランニング、どうってことなかったのに……やはりすっかり、身体が(なま)ってしまったんだな……」 「いや、今でも十分タフだよ。今までが化け物レベルだったんだ」 「上位ランカーなら、それくらい普通だもの……」 「そうかもな。まあそれはそれとして、無理はよくないよ。とりあえず朝食を作るから、兄上はシャワーでも浴びてきたらどうだ?」  そう言ったら兄は素直に家に戻り、汗に濡れたタオルを持って浴室に向かった。

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