1159 / 2296
第1159話
「予め言っておいてくれれば、掃除道具とかいろいろ揃えておいたんだが」
「いや、そこまで気合いを入れると逆にめんどくさくなっちゃうんだ。そこは鍛錬と同じかもしれない」
「……え? 兄上、鍛錬する時は気合い入れないのか?」
「入れないなぁ。私の場合、『いつでもやめてやろう』的な緩い気持ちでやった方が長続きするんだ」
「そ、そうなのか……」
「でも、お前は真似しちゃダメだよ。お前は私と違って真面目だから、気合い入れてコツコツ鍛錬した方が絶対効果出ると思う」
などと笑いつつ、兄はキッチンの隅で干からびていた虫の死骸を無造作に処分した。
――やっぱり、兄上と俺とじゃだいぶ性格に差があるな……。
今更だが、事あるごとに実感する。
鍛錬の仕方も違うし、物事に対する反応もそうだ。先程の虫の死骸に関しても、自分だったら軍手と火ばさみでげっそりしながら掴むところを、兄は平気な顔でゴミ袋に放り投げていた。しかも素手で。
この点に関しては、真似できそうにない部分も多い。
「お前、また変なこと考えてない?」
「えっ?」
「『お兄ちゃんと似てないなぁ』とか。また定期的な風邪症状が始まったのかい?」
「ああ、いや……そこまで深刻には考えてないよ。確かに似てないところは多いけど、だからといって落ち込んではいない」
「ありゃ、珍しいね。以前は事あるごとに『本当に兄上と血が繋がっているのか』って悩みまくっていたのに」
「ああ、まあ……それはな。俺と兄上とじゃ、見た目も性格も全然違うから」
キッチンの隅にまたもや虫の死骸を見つけて、アクセルは軍手をしてから火ばさみでそれを摘まみ、ゴミ袋の中に入れた。先程より幾分小さな虫だったけど、やはり素手で触る気にはなれない。
「でも、もう『血の繋がりがないかも』って思うことはないよ。大変な目に遭ったけど、施設に行ったことで俺にも巫女の血が流れてるんだなって実感できた。それだけでも施設に行った価値があったよ」
「そっか」
ともだちにシェアしよう!

