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第1172話

「そう言っていただけると嬉しいです。でも弓道だけでは、あまり戦いに使えないのも事実でして」 「え? そうなのか?」 「はい。こう……決められた位置に立って落ち着いて射るならいいんですけど、死合いや狩りではそうはいかないでしょう? 自分や的が動いていたりすると、案外上手くいかないものですよ」 「まあ、それはそうかもしれないが」 「そもそも弓矢というのは、相手が攻めてこない遠くから一斉に射るのが基本的な使い方なんです。単体では効果が薄れますし、接近されたらどうしようもありません。死合いのようなタイマンバトルでは、ほとんど飾りにしかならないんですよね」 「…………」  アクセルは視線を移し、遠くの的に目をやった。  コニーが的にしている円形の板には、矢が一ヵ所――ど真ん中にのみ命中している。だがよく見たら一本ではなく、もう一本は矢尻が突き刺さったまま枝の部分が縦に割れていた。  ――あれってもしや……先に射た矢に被せて、二本目の矢を命中させたのか……?  要するにコニーは、一ミリのズレもなく同じ箇所に矢を放てるということだ。アクセルからすれば、十分すぎるくらいの一流技能である。 「確かに弓には弱点がある。でも、あそこまで正確に矢を放てるってのは素晴らしい一流技能だよ。少なくとも俺にはできない」 「そうですか?」 「ああ。というか、どんな武器にも長所と短所があるものだろ? 俺の小太刀も、接近戦には強いけど遠くの敵には何の役にも立たないし。戦士も武器も、一長一短なのが当たり前だと思うぞ」  戦士というのは本来、戦で敵を撃退するために存在するもの。そして戦は何千、何万の兵士がぶつかり合うものだ。そういった戦になってくると「歩兵」、「弓兵」、「騎馬兵」、「装甲兵」……等、それぞれ兵種が分かれてきて、求められる役割も違ってくる。  与えられた役割をきちんと全うできてこそ一流の戦士であって、弓兵は弓の腕前さえ一流ならそれでいいのだ。

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