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第1176話

 ――じゃあ、的作りでもするか……。  アクセルは庭に出て、余っていた丸太を引っ張り出し、ノコギリでギコギコ切り出した。  鍛冶屋に預けてから久しぶりに使ったが、玉鋼で打ち直してもらっただけあって切れ味も抜群だった。さすが、危険を冒して玉鋼を取ってきた甲斐はある。  次いで、切り出した木に赤と青で円を描き、簡単な的を作った。これを遠くに置けば練習に使えるだろう。 「ただいま~」  ちょうど兄が帰ってきて、玄関から庭に回ってきた。気づけば陽も傾いて夕焼けになっていた。 「おや、何してるの? 木彫り?」 「違うよ。練習用の的を作ったんだ。俺があまりに下手くそすぎて、鍛錬場を追い出されてしまったもので」 「……え? 何それ? どういうこと?」  仕方なく、アクセルは今日あった出来事を簡単に兄に話した。  鍛錬場で弓の練習をしようと思ったら、コニーと遭遇したこと。その後コニーの場所を借りて自分の練習しようと思ったら、予想以上に下手で自分で呆れてしまったこと。それを見ていた他の戦士が「下手くそは出て行け」といちゃもんをつけてきたこと……等々。 「ははぁ……それですごすご帰ってきたわけね。そんなの言い返してやればよかったのに。『下手くそだから練習してるんだろ』ってさ」 「いや、言い返すともっと面倒なことになりそうだったんで……。なんか柄も悪かったし、下手に関わっちゃいけないなと」 「ふーん? そういう危機感は働くんだね。なのに、他のところで危機感が皆無になるのは不思議だなぁ」 「す、すみません……。でも今回は危機を回避してきたわけだし」 「そうじゃなきゃ困りますよ。……それで、お前にケチつけてきたのはどこの誰? お兄ちゃんがシバいてきてあげる」 「い、いや、大丈夫。名前も知らないし、下手なことして逆恨みされても困るしな」  鍛錬場を追い出されたくらいで腹は立たないし、周りで練習している人に迷惑という理屈もわかる。やろうと思えば家でも練習できるし、しばらくは自宅でコツコツ頑張ろう。

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