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第1177話

 兄は、腰に手を当てて言った。 「ま、お前がいいなら勘弁してやるけどね。でもまた誰かにいじめられたらすぐ言うんだよ? 今度こそ、メタメタのギタギタにシバいてきてあげるから」 「う、うん……そうだな……」  ……余程ひどいことされない限りは、兄に報告はしないでおこう。 「ところでお前、そんなに弓下手だったの? ちょっとここで見せてくれない?」 「あ、ああ……いいけど、本当に下手だから呆れないでくれよ?」  アクセルは武器庫に置いてある練習用の弓を引っ張り出し、的をお手製露天風呂の近くに置いた。  そして何メートルか距離を取り、キリキリと弓を引き絞って一本矢を放った。  矢は最初は真っ直ぐ跳んでいたが、徐々に軌道が落ちてきて的の下側に当たった。真ん中を狙ったはずなのに、随分下に刺さってしまった。 「……なるほど、そのレベルなのか」 「う……すみません」  穴があったら入りたい。というか、ピピの小屋に逃げ込んで現実逃避したい。  こんな腕前じゃ狩りはもちろん、来月のランクマッチでも使い物にならないだろう。もうすっぱり諦めて、ヤドリギを投げる練習に切り替えた方がいいかもしれない。  すると兄は、的に近づいて矢の刺さり具合を眺めた。そして言った。 「まあでも、思ったほど致命的じゃなかったかな。本当に致命的だったらそもそも的に届かないし、届いたとしても矢尻が刺さらないからね」 「そうなのか?」 「そうだよ。その点、お前はまだ伸びしろがあるから安心した。ちょっとずつでもいいから、距離感と風向きと重力を掴んでいくといいよ」  ちなみにコツは、ちょっと上すぎるかなってくらい上を狙うことだよ……と、兄がアドバイスしてくれる。  致命的なまでに才能がないわけじゃなかったので、少しホッとした。……まあ、下手くそには変わりないが。  的に刺さった矢を抜いていると、兄が後ろから軽くハグしてきた。 「ところで、今日の夕飯は餃子鍋かい? キッチンに食材が準備されてたね」

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