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第1196話

「おや、いい匂いがするね。今日はシチューかな?」 「ああ。久しぶりにイノシシのシチューを作ったんだ。そういや最近食べてないと思ってな」 「言われてみればそうかも。お前のシチューは美味しいから好きだよ」  嬉しそうに微笑み、次いで後ろ手に隠していた何かを見せつけてきた。 「ねえ、それよりアクセル。これ見て!」 「? なんだ?」 「ジャーン!」  兄が台に置いたのは、あまり見慣れない武器だった。  小型の弓が横向きにセットされており、その下には引き金らしきものが取り付けられている。 「え……何だこの武器? 弓とは違うのか?」 「ボウガンだよ。ここに矢をセットして、こっちの引き金を引くの。そうすると、ピュッと矢が飛んでいくんだよ」  ちょっと試し打ちしてみようか、と兄が庭に出ていく。アクセルもそれについて行った。  的の前に立ち、弓の真ん中に矢をセットして構える。軽く引き金を引くと、当たり前のように矢が飛び出していった。トスッと小気味いい音がして、矢が真ん中付近に命中する。  アクセルは軽く拍手をしつつ、言った。 「すごいな……。こんな武器初めて見た。武器屋に行くって、これを手に入れてたのか」 「そうだよ。エルフの職人さんに頼んで作ってもらったの。これならお前も上手く扱えるんじゃないかと思って」 「えっ……?」  まさか自分のためとは思わず、目を丸くして兄を見る。  兄は続けた。 「ヤドリギ投げてるお前を見てたけど、狙いは全然悪くなかった。ちゃんと思っているところに投げられていたからね。ということは、『弓を引く』っていう動作そのものが苦手なんじゃないかと思って。それを全部省略できる武器を作ってもらったのさ」 「そう、なのか……」 「これだったら矢をセットして狙いをつけるだけだし、余計な力は必要ない。連射はできないけど、そこに関しては普通の弓も同じだから性能自体に差はないと思うな。せっかくだから、これで練習してみたらどうだい?」

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