1202 / 2296

第1202話

 自分の弓の腕が致命的だと知ったら、ユーベルはどうするだろう。ボウガンでもいいから同じようにやれというだろうか。それとも諦めて、裏方に徹しろというだろうか。  一戦目から負けるのは縁起が悪いから、あまり足は引っ張りたくないのだけれど……。 「っ!」  その時、いきなりこちらに矢が飛んで来て、アクセルはほぼ反射的に身体を捻った。  標準的な矢がこちらの耳元を通過し、後ろの木に突き刺さる。そのまま突っ立っていたら眉間に直撃して即死していただろう。 「おや、弟くんでしたか。わたくしを狙う暗殺者かと思いました」  殺意剥き出しだったユーベルが、こちらを見て動きを止める。  いきなり撃ってくるなよ……と小言を言いたくなったが、貴族サマに下手に反論するのはよろしくない。  アクセルは顔を引き攣らせて、何とか答えた。 「すみません……。声をかけようと思ったんですが、つい動きに見入ってしまって」 「そうですか。あなたもようやく、わたくしの優美さを理解してきたみたいですね」  優美さはともかく、動きが洗練されていたのは間違いない。 「来月のランクマッチでは同じチームに所属することになりました。足を引っ張らないように頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。……あ、これ手土産です」  と、持参した酒をユーベルに渡す。自分では買った覚えがないので、兄の嗜好品かもしれないが……まあ、後で同じものを買い直せば済むことだろう。 「なるほど、殊勝な心掛けですね。時に弟くんは、弓の腕はどんな感じなんです?」 「それは、ええと……あまり得意ではなくて。昨日、兄からボウガンをプレゼントされたばかりなんです」 「ほう。ボウガンなら扱えるというわけですか」 「ええ、まあ……。まだ練習中ですけど」 「最低限のスキルがあるなら問題ないでしょう。下位ランカーにわたくしレベルの技量は求めていません。わたくしの動きを真似ろと言っても、歌劇団に所属していない連中ではそれもできないでしょうしね」

ともだちにシェアしよう!