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第1208話

 今日は兄もボックス席で観戦予定らしく、飲み食い用のクッキーとお茶をバスケットに入れて用意していた。完全に遊び気分のようだ。  アクセルは苦笑いしながら、答えた。 「まあ、最後まで生き残れるように頑張るよ。死んじゃったら棺行きになるけど、俺が棺に行ってる間に浮気とかしないでくれよな」 「やだな、するわけないじゃない。私はお前一筋なんだからさ」 「……はいはい」  そんな風に言いながら、今まで何度浮気に悩まされたかわからない。  もっとも、兄は「一晩他の戦士と一緒にいたくらいじゃ浮気にならない」と考えているから、前提条件からして自分とは認識がズレているのだが。  万が一浮気されたら、また思いっきりぶん殴ってやろう……と考えつつ、アクセルは兄と一緒に家を出た。  ランクマッチが行われる場所は、いつものスタジアムのすぐ隣にあった。いつ工事したのか、スタジアムと同じ大きさの闘技場ができている。  ただし、屋根のないスタジアムと違ってこちらの闘技場はドーム型だった。チーム戦で規模が大きいから、場外まで吹っ飛ばされるのを防ぐためかもしれない。吹っ飛ばされるのは武器だけとは限らないが。 「それじゃ、試合頑張ってね」  と、ゲートで別れる時に兄が手を振って来る。アクセルもそれに応え、戦士専用入場口に入った。  建物の構造も、いつものスタジアムと大差なかった。控え室は多少広いかなという印象だが、置いてある備品やロッカー等は代わり映えしない。  ――ええと……空いているところを適当に使えばいいのかな?  場所が指定されているわけではなかったので、アクセルは一番奥の邪魔にならなさそうなロッカーを選んだ。  試合後に使う用の汗拭きタオルやハチミツ入りレモン水をロッカーに預け、鍵をかけて扉を閉めていると、 「おい、そこのロッカーはオレの指定席だぞ。勝手に使うなよ」  横から唐突に難癖をつけられ、アクセルはそちらに目をやった。

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