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第1218話

 ――どうしよう……兄上……。  あまりにどうしようもなくなり、縋り付くようにボックス席の兄を見上げる。兄は周りの歓声に押されながらも、じっとこちらを見下ろしていた。  その目と自分の視線がかち合った時、周りの喧噪が消えて兄の声だけが聞こえてきた気がした。  ――もう諦めモードなのかい? 狂戦士(バーサーカー)になったばかりじゃないか。  ――でも、ランゴバルト様が強すぎて……。  ――せめて試合終了まで頑張りなさいよ。あと二〇分くらいでしょ。  ――あと二〇分もなんて、身体が保たないよ……。  ――へえ? そんな弱気になっちゃうんだ?  ――……だって……。  ――もしお前が死んで棺行きになったら、お兄ちゃん寂しくて浮気しちゃうかも。それでもいいの?  ――んなっ……!? いいわけないだろ、そんなの!  ――じゃあ最後まで頑張りなさい。お前ならできるはずだよ。  ――そんなこと言われても……。  ――何もランゴバルトを直接倒す必要はないんだ。倒せないなら、別の方法で試合を終わらせるまでだよ。  ――えっ……?  ――もし生き残ったら、とっておきのご褒美をあげるから、ね?  ――え、ちょっ……別の方法で試合を終わらせるってどういう……!  次の瞬間、ざぁっと喧噪が戻ってきた。  我に返るのと同時に頭上から無数の矢が降ってきて、急いでその場を離れる。 「っ……!」  ドドド……と、矢が地面に突き刺さっていくのを横目で確認しつつ、アクセルはボウガンを構えた。次の矢をセットし、引き金に指をかける。  ――わかったよ……! 何がなんでも試合を終わらせてやる!  ご褒美はともかく、浮気なんて絶対に御免だ。自分がいない間にまたジークとイチャイチャするのかと思うと、腸が煮えくり返る。 「タアァァァッ!」  アクセルは飛んできた矢をジャンプして踏みつけ、そのままの勢いで更に高く跳躍した。そして上からランゴバルトに向けてボウガンを構えた。

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