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第1224話
「アイコンタクトで心の声? 何それ? 試合中に私と会話したってこと?」
「そうだよ。どうすればわからなくなって兄上を見上げたら、『もう諦めちゃうのか』って声が聞こえてきて……」
「ええ? 本当に? 私にはそんなテレパシーみたいな能力ないんだけどな」
「で、でも本当に聞こえたんだよ。周りの音が全て消えて、俺と兄上だけみたいな瞬間があって、それでしばらく会話して……」
言っているうちに、自分でもよくわからなくなってきた。
冷静に考えれば、そんなこと起こるはずがない。兄は「私にそんな能力はない」と言っているし、もちろん自分だってエスパーのような能力とは無縁だ。
となれば、「困った時の兄頼み」を頭の中で勝手に繰り広げ、さも本当に会話があったかのように錯覚してしまったのかもしれない。生きるか死ぬかの極限状態だったから、余計に思考と現実の境が曖昧になってしまったのだろう。
――うーん……でも、完全な妄想だったとも思えないんだが……。
釈然としない気持ちを抱えていると、兄がにこりと微笑んだ。
「まあとにかく、お前は最後まで生き残った。そこはすごく頑張ったと思う。帰ったらいっぱいご褒美あげるね」
「えっ……!? ご褒美って……」
「そりゃあ、お前の大好きな愉快なことさ。わかるだろう?」
「っ……!」
「頑張った時はそれ相応のご褒美がないとやる気も出ないし。楽しみにしててね」
「あ、ああ……」
曖昧に返事をしつつ、アクセルは少し違うことを考えていた。
――やっぱり妄想じゃないと思うなぁ……。
今のも、試合中に聞こえた兄の声そのものだ。頑張ったらご褒美くれるって言ってたし、その時の兄はとてもウキウキしているように見えた。
仮にこれが妄想じゃなく自分の能力だとしたら、少し離れた場所からも兄と会話できるということになる。それはそれですごく便利だ。
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