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第1226話
アクセルは少しだけ唇を尖らせた。
「こっちに来たばかりの時にマッチングしちゃったことが悔やまれるな……。あの頃は手も足も出なくて、一方的に斬られるだけだったから」
「そうでもないでしょ。最期に一撃入れたじゃない」
「それだけだろ。それじゃ、対等に斬り合ったとはいえないよ」
「まあそうかもね。でも、私にとっては一番心に残る死合いだったよ。十年以上も待ってようやくお前が来てくれて、その上死ぬまで斬り合えた。本当に最高の時間だった。あの時の興奮は、今でも鮮明に覚えてるなぁ」
「……そうだな。俺も、久しぶりに兄上と対峙できてぞくぞくしてしまった」
当時の自分は狂戦士モードも使えなかったけれど、それでもスタジアムで向き合った瞬間、腹の内から歓喜の渦が湧いてきたものだ。開始数秒で滅多斬りにされてしまったが、その痛みですら快感に置き換わった。あの時の高揚感は、きっと何物にも代えがたい。
早くあの感覚を味わいたい。もう一度と言わず、何度でも。
「……ところで、そろそろ治ったかな?」
兄が脇腹をつついてきて、くすぐったい感覚に身を捩った。けれど痛みはなかったので、完治していると思われた。
「よし、じゃあそろそろ帰ろうか。いっぱい動いてお腹も空いただろう?」
「ああ、そうだな。……でも兄上は、ボックス席でいろいろ飲み食いしてたみたいだが」
「あれはお菓子だから別腹だよ」
しれっとそんなことを言う兄。まったく……この兄はスレンダーなくせに大食いすぎて、時々呆れてしまう。この点は自分と全然似ていない。
泉から出て、歩いて家に帰ったら、ピピが「おかえり」と言わんばかりにすっ飛んできた。嬉しそうにこちらに纏わりつき、長い耳をパタパタ上下させている。ちゃんと生き残って帰ってきてくれたことが嬉しかったみたいだ。
「さ、お前はピピちゃんとお風呂にでも入っておいで。ご飯なら私が作っておくからさ」
「ああ、わかった」
言われた通り、アクセルは露天風呂に浅くお湯を張り、ピピと一緒に湯を浴びた。
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