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第1233話

「うん……楽しみにしてるね」  そうやって微笑んだ兄の顔が、アクセルには微妙に揺らいでいるように見えた。  水に打たれているから単純に視界が悪かったのか……それとも兄の僅かな感情が表に出ていたのか……は、ハッキリしない。  正直、嫌な予感がしないでもなかったが、あまり言及すると現実になってしまいそうだったので、あえてツッコむのもどうかと思った。  ――気のせい……だよな、きっと……。  弟が強くなるのを、兄が喜ばないはずがない。仮に元気がないのだとしても、そういう時は誰にでもある。変なことを勘繰るのはやめよう……。  そう自分に言い聞かせ、アクセルはこの時の違和感に蓋をした。  二人はそのまま、黙って滝に打たれ続けた。何分打たれたのかわからないが、身体が冷えてきたのと足腰が限界を迎えたのとで、自然と滝の下から離れた。 「うう……風呂に入りたい……」  ガタガタ震えながら、アクセルは濡れた服を絞った。  冷たい水は、いざ外に出た時が一番寒く感じる。打たれている時は感覚が麻痺しているのか、むしろ「ちょっと温かいかも」とさえ思ってしまうのだ。  もっとも、そんな風に感じていても水の威力は変わらないから、打たれすぎると身体が冷えて低体温症になったり、刺激に耐えられなくなって気絶してしまったりするわけだが。 「じゃあ私は、次の修行場に行こうかな」  一方の兄はサッと上着を脱ぎ、上半身裸のまま近くにあった岩を押し始めた。自分の身長より大きく重量もある岩が、ズズッ……と地面を擦りながら移動していく。 「兄上、もう次に行くのか? 寒くないのか?」 「平気だよ。お前、一度家に帰るなら私の上着洗濯しておいてくれない?」  と、ポイッと上着を放り投げてくる。そして何事もなかったように岩を押し続けた。 「あの、兄上……」 「というわけで、あとはよろしくね。あ、よかったら新しい服持ってきてくれないかな」 「あ、ああ……わかった……」  仕方なくアクセルは一度家に戻り、洗濯用のカゴに衣服を全部投げ入れて、衣装棚から新しい服を引っ張り出した。そして急いで修行場に戻った。

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