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第1234話

 ――ええと……兄上はどこに……。  最初の修行場を見てみたが、兄の姿はなくなっていた。岩を押したまま、次の修行場に行ってしまったらしい。  というか、あんな重そうな岩をガンガン押して行けるなんて、兄の足腰はどうなっているんだ。強すぎやしないか。少なくとも自分がやったら、途中で腰を悪くしてしまいそうだ。  やっぱり何だかんだ、自分は兄には遠く及ばない。  ――あ、いたいた。  岩を押した跡を辿っていったら、兄の姿を発見した。  兄は次の修行場で、上半身裸のまま高い鉄棒にぶら下がっていた。しかもただぶら下がっているのではなく、両膝を引っ掛けて上下逆さまになっており、そこから腹筋だけで上半身を持ち上げている。  ――うわ……すごいなぁ……。  服を着ている時はスレンダーに思えるけれど、こうして上半身裸になっていると鍛えられた筋肉がよく見える。二の腕や腹筋、背筋も綺麗に仕上がっているし、このまま彫刻にして飾っておきたいくらいだ。  普段はどこでどう鍛錬しているのかわからないような兄だけど、あの仕上がった肉体はやはり上位ランカーにふさわしい……。 「……おや、おかえり。もう洗濯は終わったのかい?」  ぶら下がっている兄と目が合い、アクセルはそちらに近づいた。そして新しいトレーニングウェアを差し出して、言った。 「それは後でやるよ。それより、新しい服を持ってきたぞ」 「ありがとう。そこ置いといてくれる?」 「いいけど、上着くらい着た方がいいのでは? そのままだと風邪をひくぞ」 「どうせ汗で濡れちゃうから同じことだよ。私のことは気にせず、お前はお前の鍛錬をしなさい」 「だけど……」  なおも言い募ろうとした時、不意に兄の身体が揺らいだ。  ハッとして、アクセルはほとんど反射的に両腕を伸ばした。  兄は力が抜けたように鉄棒から滑り落ち、そのまま地面に落下した。

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