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第1235話
「どわ!」
結局自分が下敷きになるような形で、兄を受け止める羽目になった。
鉄棒からの落下だからたいした高さではなかったけれど、やはり大の大人が上から落ちてくるのは結構な衝撃になる。
「兄上、大丈夫か?」
頭を押さえている兄を、アクセルは抱き起こして様子を窺った。
鉄棒からの落下でも、打ち所が悪かったらすぐに棺に入らなければならない。自分はしっかり受け止めたつもりでも、気づかないところで重傷を負っている可能性は否定できないし。
すると兄は何度か目をしばたたかせ、軽く頭を振って言った。
「ああ、しまった……頭に血が上ってしまったみたいだ。悪かったね」
「いや、俺は大丈夫だ。それより本当に怪我はないか? 頭を打ったりとかは……」
「してないよ。ちょっとうっかりしただけ。大丈夫だから、そんなに心配しないで」
「そ、そうか……。ならいいんだが」
アクセルの心配もそっちのけで、兄はさっさと立ち上がり鍛錬を再開しようとする。
せっかく持ってきた上着も着てくれないので、さすがにやんわりと注意した。
「なあ兄上、少し休憩しないか? さっきからペースを考えずに鍛錬してる気がするぞ」
「そんなことないよ。今日はみっちり鍛錬したいだけさ」
「みっちりやるのはいいけど、それでも適度な休憩は必要だろ。そのままじゃ風邪もひきそうだし、せめて上着くらいは着てくれよ。せっかく鍛錬したのに、翌日風邪をひいてたら本末転倒じゃないか」
「…………」
兄がこちらを振り向いた。その目はいつもと同じ青色だったが、何故かギラギラと血走っているように見えた。怒っているわけではないが、何かこう……苛立っているのか、焦っているのか、落ち着きがない。こんな兄は初めてかもしれない。
「……しょうがない。じゃあちょっとだけ休憩しよう。水は持ってきてくれたかい?」
「う、うん……どうぞ」
上着と一緒に、アクセルはハチミツ入りレモン水が入ったボトルを差し出した。
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