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第1237話

「以前は私の腕を振り解くこともできなかったのに」 「それは……俺だって毎日鍛錬してるからな。いつまでも兄上の後ろにいるわけにはいかないよ」 「確かに、お前の成長率には目を見張るものがあるからね……。私もおちおちしていられないな」 「兄上は今のままでも十分強いよ」  ごく当たり前のことを口にしたつもりだったのだが、何故か兄はじっとりとこちらを睨んできた。 「……お前も、私はこれ以上強くなれないって思ってるのかい?」 「えっ!? そ、そんなわけないじゃないか。なんでいきなりそんなこと言うんだよ」 「……お前と違って、私は既に頂点近くに立ってしまっているんでね。正直、今のランクをキープするのが精一杯なんだよ。一位になりたいとは思わないけど、自分が進歩していない感じがして、たまに虚しくなるんだよね」 「それは……」  なるほど、それで一心不乱に鍛錬していたのか。  確かに兄はもとの実力もすごいから、ランクを落とさないようにするだけでも大変だろう。ランクが落ちる恐怖も普通の戦士とは違うだろうし、これ以上ランクアップすることもないから達成感もない。ただひたすら、自分の地位をキープすべく努力するしかないのだ。  この苦悩は上位ランカー独特のものだから、正直アクセルにはまだ理解できない。兄の高みにまで到達できたらわかるかもしれないが、自分はまだ険しい山道を登っている最中だ。  早く兄のところまで行きたい。兄の苦悩を理解してあげたい。  そう思いつつ、アクセルは今の自分にできる励ましの言葉を口にした。 「でも上位ランカーの実力は、みんな団子状態なんだろう? その中でずっと同じようなランクをキープするの、すごく大変だと思うよ。俺は兄上が密かに努力していることも知ってるし、進歩してないどころか常に強くなり続けているのも知っている。時々、どんなに頑張ってももう兄上には追い付けないかもな……とも思うんだ。いや、もちろん追い付きたいけどな」 「…………」

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