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第1238話
「とにかく、兄上はそんなに悩む必要ないと思う。あまり根を詰めても身体によくないし、今まで通りマイペースにやっていけばいいんじゃないか? 死ぬ気で頑張らなきゃいけないのはむしろ俺の方だし……あまり兄上に頑張られると、それこそ絶対追い付けなくなるというか」
「……そうだね。確かに身体にはよくない」
そう言って、兄は掴まっていた鉄棒からストンと地面に降りた。
ちょっと休憩するのかと思ったら、兄は呟くようにこう言った。
「……でも私は、お前に追ってこられるのは少し怖いんだよね」
「……えっ……?」
「いや、何でもない。私はそろそろ切り上げるから、お前はそのまま鍛錬してなさい」
「え、ちょっ……」
どういうことか聞き返すより早く、兄はスタスタと修行場を立ち去ってしまった。
あまりに慌てたので鉄棒から下りる時に盛大にずっこけてしまい、そのせいで追い付くこともできなかった。
「兄上、待ってくれよ!」
一切振り向くことなく、兄はそのまま離れて行った。後ろで弟が転んでいるのに、一度もこちらを見てくれなかった。それも地味にショックだった。
――何で……? 何でいきなりあんなこと……。
お前に追ってこられるのは怖い、だなんて。今まで一度もそんな風に言ったことなかったじゃないか。むしろ弟のランクが上がるのを純粋に喜んでくれていたじゃないか。
確かに下の者がだんだん自分のところにやってくるのは、自分の地位が脅かされるようで怖いこともあるかもだけど、それだったら最初から応援なんてしないのではなかろうか。
なのに、何故今日に限ってあんなことを言ってきたのだろう。意味がわからない。
――何かきっかけとなる出来事でもあったのか……? でも、これといった原因なんて全然思いつかないんだが……。
仕方なくのろのろと身体を起こし、もう一度鉄棒にぶら下がる。懸垂を再開しようと思ったが、兄のことが頭から離れず、結局ほとんど鍛錬にならなかった。
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