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第1242話

 ――俺の方が、兄上のこと好きなのに……。  口をへの字にしたまま俯いていると、ジークが苦笑しながら言った。 「まあそう怒るな。俺に嫉妬しても何にもならんぞ」 「べ……別に嫉妬なんて……」 「いいじゃねぇか。フレインはただお前さんの『子離れ』が寂しいだけだ。逆に言えば、それだけ大切に育てられてきたってことなんだから」 「子離れ……ですか?」  アクセルは訝しげに顔を上げた。イマイチ納得できず、重ねて聞いた。 「……本当にそれだけなんですかね? そもそも俺は兄上の元を離れるつもりはないですし、実力という意味でも兄上に遠く及ばない。どこに子離れの要素があるんです?」 「お前さんはそう主張するだろうな。でも育ててきた側は、それでも結構複雑なんだ。お前さんがフレインの元を離れる意思がないとか、実力が及ばないとか、そういう問題じゃない。フレインがお前さんを『一人前に育ったんだなぁ』と思った時点で、フレインの『兄として』の役割は終わるんだよ。それは同時に、フレインのアイデンティティの消失にも繋がるんだ」 「え……」  アイデンティティの消失。  初めて聞いた言葉……ではないが、アクセルにとっては新鮮な概念だった。今まで『自分のアイデンティティは何か』などの哲学的なことはあまり考えてこなかったため、そちらの悩みに関しては全くノーマークだった。  ジークは続けた。 「フレインはな、お前さんが思っているより『兄としての自分』にこだわっているんだ。誇りを持っていると言ってもいいかな。あいつ、お前さんが生まれるまではずっと独りぼっちだったんだろ? 自分を認めてくれる人もいなくて、『自分は本当に必要な存在なんだろうか』と悩んでいたはずだ。でもお前さんの『兄』でいる間は、少なくともお前さんが必要としてくれるからな。自分の存在意義を信じることもできたんだ」 「…………」

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