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第1276話

「さて、もう一周して素振りに入ろう」  庭を走り終え、ストレッチで軽く筋肉を伸ばし、太刀筋矯正用の柱で素振りを行う。  最初は一〇センチ以上離れていても途中で刃が噛んでいたものだが、今は五センチ未満でもあまり引っ掛からなくなった。左右で多少偏りはあるものの、「武器を真っ直ぐに振り下ろす」という動作が、だんだん身体に沁みついて来たみたいだ。  ――兄上は「三センチで及第点」って言ってたからな……。もう少し頑張らないと。  最終的に斬れれば太刀筋なんて関係ないだろう……などと考えていた時期もあったけど、今更ながら「正しい場所に武器を振るう」ことがどれほど大切か実感している。明らかに斬るのが楽だし、力の温存にも繋がるのだ。  上位ランカーのスタミナの秘訣は、「太刀筋がブレないから」というのもあるかもしれない(もっとも上位ランカーにとっては当たり前のことすぎて、人によっては「そんなこともできないの?」と呆れられてしまうだろうが)。 「アクセル、私ちょっと買い物行ってくるよ。夕飯の食材足りなくなっちゃった」  兄が買い物カゴを手にしつつ、庭に降りてくる。  家にはまだ十分すぎるくらい食材が残っていたのに……一体何を作るつもりなんだろう。そんなにたくさん作ってくれても食べきれないのだが。 「ええと……まあ、ほどほどにしてくれ」 「わかってるよ。……あ、太刀筋矯正は捗ってる? ちょっと成果を見せてくれない?」 「ああ、わかった」  アクセルは二刀小太刀を構え、シュッシュッと勢いよく柱の間に振り下ろした。右は問題なく、左も少し柱に掠ったがほぼ真っ直ぐ振り下ろすことができた。 「おお、いい感じじゃない。じゃ、今度は三センチに挑戦ね。頑張れー」  そう言って、兄は颯爽と家を出て行った。無駄に足取りが軽く、どこかウキウキしているようだった。弟をお祝いするのがそんなに楽しみなのか……。

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