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第1279話
ヴァルハラにいる戦士は、多かれ少なかれ皆ライバルである。ランクの上下は自分の生活に直結するので、友人のランクアップを呑気にお祝いしている暇はないのだ。
アクセルのように、手放しで喜んでくれる兄がいる方が稀なのかもしれない。
チェイニーは更に言った。
「ま、せっかくのリクエストだし作ってやれば? そんなに難しいスープでもないしさ」
「うん、まあ作るのはいいんだが……俺、アロイスの故郷のスープがどんなものか知らないんだよ。味がわからないんじゃ再現のしようがない」
「え、食べたことないの? だったら市場の出店に行ってみるといいよ。表のメニューにはないけど、裏メニューに『豆のスープ』ってのがあるからさ」
「えっ? そうなのか? それは知らなかったな……」
というか、アクセルは食事をする際はいつも自炊だから、市場にどんな出店が出ているかもあまりよく知らなかった。
「んじゃ、今からちょっと行ってみようぜ? どんなスープか確かめないと、何も作れないし」
「そうしたいのはやまやまだが、兄上がいない間に勝手に出掛けるわけにはいかないよ」
「いやいや、市場までなんだから大丈夫っしょ。心配なら書き置きでも残しておけばいいんだし」
「……それもそうか」
特に深いことは考えず、アクセルはチェイニーの誘いに乗って家を出た。念のために一言書き置きを残したが、市場までだし心配することもないだろうと思った。
「アクセルはこの辺の出店、あまり来たことなさそうだね」
食材や雑貨を売っている場所より更に奥に、複数の出店が立っていた。
ずらりと並んだ白いテントの前にはテーブルと椅子が設けられており、買った食事をその場でとれるようになっていた。いわゆるフードコートみたいな感じだ。
「こんな施設、前からあったっけ? 初めて知ったんだが」
「ラグナロクが終わった後、要望が多かったから作ったんだってよ。自炊できない戦士 にとっては、結構重宝する場所みたい」
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