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第1282話
「お前はもともと少食なんだから、あまり調子に乗って食べ過ぎないようにね。お兄ちゃんは家でごちそう作って待ってるよ」
「あ……は、はい……」
「じゃあね」
チェイニーににこりと笑みを向け、兄はあっさり立ち去って行った。買い物カゴにたくさんの食材が詰め込まれていたのを見たら、余計に罪悪感が湧いてきた。
「うわぁ……なんか、めっちゃ牽制された感じがする」
チェイニーも困ったように頭を掻く。
「牽制ってなんだ? チェイニーは別に何もしてないだろ?」
「いやぁ……オレ、以前フレイン様に挑戦状を叩きつけたことがあってさ」
「ち、挑戦状!? そんなことしてたのか!?」
「ああ、まあね。フレイン様の態度がどうも気になって。そのことを覚えてんのかなって」
「……すごいなチェイニー。俺はとてもじゃないけど、そんな勇気ないよ」
兄に限らず、ランク一桁の上位ランカーに普通の戦士が挑戦状を叩きつけるなんて、よほどの勇者か恐れ知らずかのどちらかだ。少なくとも、アクセルにはできない。
「……や、そういう意味の挑戦状じゃないんだけどさ」
「え? どういう意味だ?」
「いや、こっちの話。それより、これ飲んだらさっさと帰った方がいいよ。目的はスープのリサーチなんだし、フレイン様を誤解させると面倒でしょ」
「あ、ああ……そうだな……」
アクセルは慌てて残りのスープをかき込んだ。兄が来るまでは美味しかったはずなのに、途中から味がよくわからなくなってしまった。
チェイニーと別れ、急いで家に帰る。玄関からはどうしても入りづらかったので、やむなくベランダから家の様子を窺った。
兄は買ってきた食材をテーブルに並べ、それをせっせとキッチンに運び込んでいるところだった。特に機嫌が悪いようには見えない。
――でも、一体何て言えばいいんだろ……。
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