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第1283話
素直に謝った方がいいのか? でも浮気をしていたわけじゃないのに、謝るというのもおかしい。
最初から細かく説明した方がいいのか? でも下手に説明したら、言い訳しているように聞こえそうだ。
あえて何も言わない方がいいのか? でもそれはそれで、その後の空気が微妙なことになりそうである。
どうしよう、どうしよう……。
「ぴー?」
そんなアクセルを不審に思ったのか、ピピが後ろから声をかけてきた。「はやくはいれば?」と言わんばかりに、服の裾を引っ張ってくる。
「ちょ、ピピ……やめてくれ。今様子を窺ってるところなんだ」
「ぴ? ぴ……」
「このまま入るのは、なんか気まずいんだよ。タイミングを測って入るから、急かさないでくれ」
「ぴー……」
そう言ったものの、ピピはあまり納得していないようだった。自分の家に入るのに、タイミングも何もないだろうと言っているみたいだ。
「ぴー! ぴー!」
「お、おいピピ、あまり暴れないでくれよ! 大きな音立てたら兄上に……」
だがピピは、前脚でべしべしとこちらの身体をプッシュしてくる。
うさぎの脚は思った以上に強靭で、身体のバランスがとれずに派手にベランダに転倒してしまった。はずみでガターンと大きな音がした。
さすがの兄も気づいて、こちらに視線を向けてくる。
「おや、おかえり。帰ってきて早々ピピちゃんとプロレスごっことは、なかなか元気がいいね」
「い、いや……そんなことはしてないんだが」
「ふーん? まあいいや。それよりお前、今日の夕飯は何がいい? これだけ食材あるから、何でも作れるよ」
兄は相変わらずウキウキした様子で、広げた食材をこちらに見せつけてくる。怒っていないどころか上機嫌にさえ見えて、ますます気味が悪くなった。
これなら、嫉妬してブチ切れてくれた方がまだマシな気がする……。
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