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第1287話

「そ、そっか。お前がそう言うなら、ひどくしてあげてもいいけど」  兄は心なし呆れているようだった。こちらは割と真面目に頼んでいるのだが、どこに呆れる要素があったのだろう。 「というか、お前の方からそんなリクエストしてくるなんてほぼ初めてじゃないの? そんなにモヤモヤすることあった?」 「いや、その……ぶっちゃけると、兄上との考え方の差がな……。兄上は嫉妬のシの字もないのに、俺は兄上が友人と勝手に食事していただけでヤキモチ焼いちゃう。その程度のことすら許せない自分の心の狭さに嫌気が差したんだ」 「ああ、そういうこと……」 「俺も兄上みたいに、全く嫉妬しない人になれたらいいんだけどな……。俺がいない間に兄上が誰かと一緒にいるのも、自分に自信があるなら『ああそうなんだ』で流せる気もするし。小さなことでヤキモチ焼いちゃうのは自分に自信がないだけなのかもって思ったら、そんな自分も情けなくなってきて……」 「…………」 「でも、そういう自信は一朝一夕には身につかない。だからせめて、兄上に愛の鞭を振るってもらおうと思ったんだ。そしたら少しは気分も晴れるだろうから」 「……はあ、お前の言いたいことはわかったよ」  そう答えた兄は、更に呆れているように見えた。そして何を思ったか、突然キッチンでミルクを沸かし始めた。温めたミルクをお揃いのマグカップに注ぎ、少しハチミツを加えてこちらに差し出してくる。 「今のお前はいろいろツッコミどころ満載だからね。これ飲んで少し落ち着きなさい」 「う、うん……でも俺、結構真面目に話したつもりなんだが……」 「お前の真面目は、時々方向性がズレてるんだよ。私のこともいろいろ誤解してるし」 「誤解なんて……」  してない、と言おうとしたら、兄の人差し指に唇を押さえられて言葉を遮られた。  兄は軽く息を吐いて、続けた。

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