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第1290話

「お前は繊細だねぇ……。私とは大違いだ」  よしよし、とこちらを撫でながら、兄が穏やかに口を開く。 「お前の気持ちは理解したよ。そんなに不安になるなら、ちょっとだけでも怒ってあげればよかったね。ごめんね」 「違う……兄上は悪くない……。俺が勝手に不安になっただけなんだ……。こんなことなら、スープのリサーチなんか後回しにすればよかった……」 「スープのリサーチ? そういや、お前が飲んでたの豆のスープだったよね。もしかして、家でそれを再現しようとしてたの?」 「……うん……。アロイスに頼まれて……」  アクセルはそちらの事情も説明した。  アロイスもランクが上がっていたから、お祝いがてら故郷の「豆のスープ」を再チャレンジしてみてくれ……と頼まれたこと。  その豆のスープが市場横のフードコートの裏メニューになっていると聞いて、チェイニーに連れて行ってもらったこと。  それで豆のスープを味わっていたら、兄に見つかってしまったこと……。 「ははあ、そういうことだったのね……。なんか知らない鍋がベランダに置かれてるなーと思ったけど、アロイスくんが持ってきたものだったのか」  納得したように頷く兄。 「だとしたら、お前がそこまで気に病む必要なくない? お前は頼まれたスープがどんな味なのか確かめに行っただけで、浮気とは全く関係ない。それどころか、お友達に振り回されただけとも言える」 「それは……そう、かもしれない……けど……」 「お前は何も悪いことをしていない。私も特に気にしていない。だからこれ以上悩む必要はないんだ。私たちの関係が変わるわけでもないし、何も問題ないよね?」  返事に詰まって視線を泳がせていたら、兄が両手でこちらの頬を挟み、唇に軽くキスしてきた。  そして至近距離から見つめてきて、にこりと微笑んでくる。 「可愛いアクセル、愛してるよ。例えお前がどんな失敗をしちゃっても、私はお前を見捨てない。愛想を尽かすこともあり得ない。だから安心していいんだよ」

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