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第1305話

「……ん? 『なんか違う』って? アロイスくん、うちに来て味見でもしたの?」 「いや、そういうことではなく……」  これまでの経緯を簡単に話したら、兄は眉間に浅く皺を寄せた。 「ええ……? そんなこと言ったの? お前が一生懸命作ったものにケチをつけるなんて許せないね。一度シメてこようか」 「……シメなくていいです。とにかく、このままで終わるのは悔しいんだ。こうなったらとことん研究して、アロイスの『おふくろの味』を再現してやろうと思う」 「なるほどねぇ……。ちょっとムキになっちゃってる感じか」 「い、いや、そういうわけじゃ……。ただ、ここまで頑張ったのに『できませんでした』っていうのはちょっと後味が悪くて」 「ふーん……? わざわざミキサーまで買って、ご苦労様だねぇ」 「ただ、アロイスのいう『おふくろの味』がどんなものかわからないからな……。酸味があるって話だったが、酸味にもいろいろあるし。一体どれが正解なのやら……」  レモンやお酢を並べて見比べていると、兄がこんなことを言い出した。 「それなら、アロイスくんのお母さんに直接会いに行けばいいんじゃない?」 「……はっ?」  アクセルは思わず顔を上げた。ふざけている様子はなく、兄は至極真面目な顔をしていた。 「ええと……アロイスの母親に会いに行くってどういうことだ? そんなことできるのか?」 「できるよ。ラグナロクが終わってから、ヴァルハラのルールもいろいろ変わったからね。一年に一回だったら、観光がてら地上に降りていいことになってる。ただし、怪しまれるような言動をとったら、すぐさまヴァルハラに強制帰宅だけどね。ほら、私たちはオーディン様の眷属(エインヘリヤル)であって、厳密には人間じゃないし」  そんなシステムがあったのか。全然知らなかった。というか、そのシステムを利用している戦士に会ったことがないので、他の戦士もこのことを知らないのかもしれない。

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