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第1306話

 アクセルはスープを煮込んでいる手を止めて、言った。 「それなら、アロイスが直接お母さんのところに帰った方がいいんじゃないか? そうすれば『おふくろの味』とやらを堪能できるだろ。俺が作るまでもない」 「いや、残念ながらそれはできないんだ。自分の知り合いには会っちゃいけない決まりになってるもので」 「え? そうなのか?」 「そうなの。全く関係ない赤の他人ならOKだけど、自分の親とか友人とかには会いに行けないんだ。ヴァルハラにいる戦士(エインヘリヤル)は、地上では死んだことになってるからさ、死んだ人が突然目の前に現れたら面倒なことになりかねないでしょ」 「そ、そうか……まあ、そうだよな……」 「そのせいか、地上に降りようとする人があまりいないんだよね。意味がないというかさ。だったら、ヴァルハラで鍛錬したり狩りをしたりする方が有意義じゃない?」  それはそうだ。知り合いにもう一度会いに行けるなら降りる理由になるが、そうでないなら行く意味がない。行く意味がないから誰もこのシステムを使わず、周知も広まらなかったのだろう。 「兄上は、昔の知り合いで会いたい人っているのか?」  ふと疑問に思って聞いてみた。  生前は兄と年齢が離れていたためか、兄が交友関係を築いていたのかよく知らないのだ。兄のことだからそれなりに友人はいただろうが、今のように癖の強い友人に囲まれていたのか、それとも当たり障りのない友人ばかりだったのか、ちゃんと聞いたことがない。この際だから、昔の話を聞いてみるのも悪くないだろう。  すると兄は、顎に手を当てながら答えた。 「うーん……いなくもないけど、どうしても会いたい人はいないかなぁ。生前は戦うのに必死だったから、そこまで仲のいい友人もいなくて」 「そうなのか……」

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