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第1312話

 家族に会えるのが楽しみなのか、その後のピピはずっと上機嫌だった。  ――家族か……。  アクセルには、兄以外の家族はいない。いることはいるが、両親共に家族と認識するにはあまりに関わりが薄かった。母に至っては、「あんなのに育ててもらわなくてよかった」と安堵しているくらいだ。  だから正直、親のありがたみがよくわからない。育ててくれたのは兄だし、アクセルにとって親とは、「自分を産み落としただけの男と女」という感じだ。  ただ、一般的にはそうでないことも何となく理解している。  アロイスが「おふくろの味」とやらを懐かしむように、普通は両親を大切に思うものなのだろう。 「ねえアクセル、今日の夕飯はどうする? お兄ちゃん、ちょっと買い物行ってこようと思うんだけど」  スープを食べ終わったらしき兄が、ベランダから顔を覗かせた。 「ああ……俺はスープとパンとサラダでいいかな。今日はそんなに派手な鍛錬してないし」 「そうかい? じゃあ適当に買い物してくるね。あ、ルールブックはテーブルに置いてあるから、お前もちゃんと読んでおくんだよ」  そう言って、兄は再び出掛けていった。  アクセルはゆっくり腰を上げ、部屋に戻って最初からルールブックを熟読した。 ***  それから十日後。 「それじゃピピ、行ってくるな」 「ピピちゃんも、里帰り楽しんできてね」 「ぴー♪」  山までピピを見送り、アクセルたちは世界樹(ユグドラシル)に向かった。  地上に下りるには、世界樹(ユグドラシル)の中でも特別なゲートを通らなければならない。その道もなかなか複雑で、道が一本ズレただけで予定の場所とは全然違うところに出てしまったりするのだ。  帰るのは「転移石」を使えば一発だが、行く時は慎重に歩かなければならない。 「アロイスの故郷って、山に囲まれた集落なんだな」  渡された地図を見る。これは許可証と共に届けられたもので、ヴァルハラから故郷までの道順が細かく記されていた。

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