1315 / 2014

第1315話

 人通りの多いところにいきなりゲートが出現すると大騒ぎになるから、滅多に人の来ない裏道に出るのかなと思っていた。  でもまさか、こんな右も左もわからないような樹海を出口にされるとは。これではアロイスの実家どころか、森を抜けることもできないではないか。どうしてくれるんだ、ヴァルキリーどもめ!  かなり腹を立てていると、兄はにこやかに肩を叩いてきた。 「まあそんなに怒らないで。私は、これはこれでいいと思ってるよ。私とお前だったら、こういう森の中でも数日は過ごせるし。どうしてもダメなようだったら、転移石で帰ればいいんだしさ」 「それはそうだが、収穫ナシで帰るのはどうかと思うぞ。俺はアロイスのおふくろの味を知りたいんだ」 「お前はそうだけど、私はどっちでもいいんだよ。お前と旅行できれば満足だから」  と、呑気なことを言う兄。  微妙な顔をしていると、兄は急に真面目な口調でこう言ってきた。 「まあ何にせよ、地上で無理は禁物だ。すぐ泉や棺に入れるわけじゃないから、死ぬような大怪我はご法度だよ」 「……!」 「お前は何かに夢中になると、すぐに罠にかかる変な癖があるからね。地上では特に気を付けなきゃダメだ。目的を果たすことも大事だけど、『また今度でもいいや』くらいの軽い気持ちでいること。猪突猛進になるとロクなことがないしね」  確かにその通りだ。周りが見えなくなり、致命的なミスをした経験は山ほどある。その度に兄がフォローしてくれて、危ないところを何度も助けてもらった。  自分の都合で地上に下りたのに、また兄に迷惑をかけるわけにはいかない。棺や泉に入れないならなおさらだ。  アクセルはひとつ深呼吸をし、気持ちを落ち着かせて答えた。 「……わかった。肝に銘じるよ」 「よしよし、じゃあアロイスくんの実家を探そうか。距離的には決して遠くないと思うんだけどな」  兄が横から地図を眺めてくる。

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