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第1317話

「……あっ」 「おや」  ほぼ二人同時に森の出口を見つけた。鬱蒼としている木々が割れ、いい意味で素朴な民家がたくさん見えてくる。 「やった、出口だ……」 「お、どうやらギリギリ間に合ったみたいだね。これなら野宿せずに済みそうだ」  見れば、陽はすっかり傾いて空が紫色に変化していた。日没間際だったようだが、なんとか抜け出せてよかった。 「ええと……それで、アロイスの実家は……」  家の特徴はさすがに地図に書かれていない。というか、どれもこれも似たような民家ばかりで、外見から判別するのは不可能に思えた。  ――これ、もしや一軒一軒訪ねて回らないとダメなやつか……?  面倒……というより、不審者と思われないかが心配である。  こういう田舎の集落はやや閉鎖的なところがあるので、余所から来た者に対して冷たい態度をとりがちだ。  すんなり聞き出せればいいが、上手くいかなかった場合は最悪野宿をしなければならない。……せっかく森を抜けたのに。 「しょうがない、兄上。ここは慎重に……って」 「すみません、アロイスくんの実家はどこですか?」  アクセルが止めるより先に、兄はすぐ近くを通りかかった村人に話しかけていた。  いきなり見知らぬ人に話しかけられたせいか、その村人はかなり訝しげな顔をしていた。 「なんだ、あんたら。見ない顔だな」 「私たち、アロイスくんの知り合いでして。彼の代わりにお母様に挨拶しに来たんです」 「アニータさんにか? 今から挨拶したところでもう夜だぞ。迷惑になるから帰った帰った」 「ああ、それもそうですね。また明日出直すことにします。失礼しました」  にこやかに笑い、兄はあっさり引き下がった。 「ちょっと兄上、何してるんだよ」 「何って、情報収集さ。世間話してたわけじゃないよ」 「でも、結局場所はわからなかったじゃないか」 「お母さんの名前はわかったでしょ。アニータさんだってさ。この名前を出せば、相手の警戒心もだいぶ解かれると思うね」

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