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第1319話

「こんな夜に尋ねてくるとか、怪しいヤツ! 伝説の化け物だな!?」 「……伝説の化け物?」 「夜になると、森に化け物が出るんだ! ドズルバーとかいう、怖い化け物なんだ!」 「ド……?」 「そいつは人間の姿にも化けられて、森に迷い込んだ子供を食っちまうんだ! そいつと出会ったヤツは、生きて帰れないって言われてるんだよ!」 「へ、へぇ……」  話を聞きながら、アクセルは曖昧に相槌を打った。  ――それ、子供が夜の森に出掛けないようにするための教育的嘘なんじゃ……?  大人になった今ならわかる。子供というのは己の力量度外視で、やれ「肝試し」だの「化け物退治」だのという名目を掲げて、無謀な行動を取りがちだ。自分も子供の頃は、「兄を迎えに行きたいから」と勝手に家を出て戦場に行こうとしたことがたくさんある(今思えば迷惑極まりない)。  そういう子供を抑止するために、存在しない化け物を作り上げて行動を制限しようとするのだろう。 「これ、おやめ。お前は引っ込んでなさい」  母親がやってきて、子供を横に押し退ける。  なるほど、この人がアニータさんか。身長はさほど高くないけれど、何となく大きいなという印象を受ける。恰幅がいいのもあるし、母親特有の迫力というか……そういうものも相まって、単純な戦闘力では測れない強さを感じる。  一方で、顔の造形は何となくアロイスに似ていて、目元や鼻の形なんかはアロイスそっくりだった。万が一人違いだったら困るなと思ったが、見た目からしてもこの人がアロイスの母親で間違いなさそうだ。 「で、何だい、あんたらは。どちら様だい?」  どことなく警戒しているアニータに、アクセルは穏やかに話しかける。 「すみません、いきなり押しかけてしまって。決して怪しい者じゃないんです。俺たち、アロイスの友達でして……」 「アロイスの!?」  息子の名前を出した途端、アニータが目の色を変えた。

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