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第1322話

「ところで、今日は何しに来たんだい?」 「あ、ああ……ええと、アロイスのいう『おふくろの味』を勉強したくて」 「おふくろの味?」 「アロイス、お母さんがよく作ってくれた豆のスープが忘れられないみたいで。以前に作ってくれと頼まれたんですが、『これじゃない』と言われてしまい……。それで、直接勉強しにきたわけです」 「何だって? あの子ときたら……作ってくれた人に向かって『これじゃない』なんて暴言を吐いたのかい? とんでもない子だね」  再び息子へのダメ出しを口にするアニータ。 「すまないねぇ……そんなことのためにわざわざ。今日はもう夕飯用意しちゃったから、豆のスープは明日でいいかい?」 「ええ、もちろん。今から作るのは大変でしょうし」 「じゃあ明日作ってあげるよ。それをあの子に持っておいき。一緒にレシピも教えてあげるからね」 「ありがとうございます。よろしくお願いします」  よかった。何とか教えてもらえそうだ。  ――というかレシピ云々じゃなくて、最初からお母さんが作ったスープを持って帰ってやればよかったのか。  そっちの方が手っ取り早いじゃん……と思っていると、例のやんちゃ坊主・アーダンが戻ってきた。 「母ちゃん、風呂沸かしてきたぞ」 「ああ、ありがとね。じゃ、弟たちを入れてきておくれ」 「へいへい。……ほら、お前ら行くぞ」  四人の弟たちを引き連れて、アーダンは再び外に出て行った。どうやら風呂は外にあるようだった。 「あんた達も、よかったら一緒に入っておいで。湯加減はお好みで調節しておくれよ」  そう勧められたので、アクセルたちも外に行ってみた。  家のすぐ近くには五右衛門風呂に似たドラム缶があり、そこに水を張って下から直接焚き上げている。この手の風呂は湯加減が難しいが、アーダンは上手い具合に焚き木の量を調節しているようだった。

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