1323 / 2014

第1323話

「へえ、なかなか手際がいいな。風呂は毎回きみが沸かしているのか?」  軽い気持ちで話しかけたのだが、アーダンは生返事をしただけでこちらを振り向くことはなかった。敵意剥き出しなのが手に取るようにわかった。  ――未だに不審者だと思われてるのかな……。まあ、余所者には変わりないから仕方ないけど。  よく知らない男に話しかけられるのもウザいだろうと思い、以後アクセルは何も言わずにアーダンたちを眺めた。アーダンは弟たちの面倒をよく見ており、あれこれ言いながら下の子を風呂に入れていた。 「おい」  一通り湯を浴びた弟たちに手ぬぐいを渡し、元の服を着せているところで、アーダンがこちらを振り向いた。そしてぶっきらぼうに言葉を投げかけてきた。 「風呂空いたぞ。さっさと入っちまえよ」 「ありがとう、助かるよ」 「お前のために用意したわけじゃねーよ」  フン、と鼻を鳴らし、アーダンは弟たちを引き連れて家に戻ってしまった。  ピシャ、と乱暴に閉められた扉を見て、少し苦笑いが漏れる。 「……なんか可愛くないなぁ。あれがアロイスくんの弟さんなの?」  兄も呆れたように腰に手を当てる。 「何をイライラしてるのか知らないけど、ああいう態度はよくないね。無駄に敵が増えそう」 「きっと人見知りなんだよ……。それより兄上、どうする? 先に入るか?」 「うーん……私は一日くらいパスしてもどうってことないけど。せっかくお湯を残してくれたんだったら少し浴びようかな」 「わかった。じゃあ湯加減見ておくから、その間に支度しておいてくれ」  兄が服を脱いでいる間、アクセルは湯に手を突っ込んで温度を確認した。小さな子供でも快適に入れるよう、ちょっとぬるめになっていた。熱すぎるお湯は苦手なので、自分はこれくらいがちょうどいい。  ――でも、兄上はもう少し熱い方が好きなんだよな……。少し木を足すか。  近くで見つけた小枝を火にくべ、火力を調節する。こういう原始的な風呂は久しぶりなので、微妙な温度調整に苦労した。ヴァルハラの生活が、如何に文化的で快適かが身に沁みてくる。

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