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第1324話
「……ん?」
その時、静かに家の扉が開いて誰かが出てきた。気配からして、やんちゃ少年・アーダンだろうと思った。
彼が、一生懸命足音を殺しながらこちらに近づいてくる。本人は音を消しているつもりだろうが、さすがに素人の接近は見なくてもわかった。
――というか、またこっちを殴ろうとしてないか……?
何故だろう……どうしてそこまでして、こちらに喧嘩を売ってくるのだろうか。なんでそんなに敵意を向けてくるのだろうか。少なくともアクセルは、子供に殴られるほど悪いことをした覚えはない。
ここはちゃんと正面から向き合って、向こうの言い分を聞いた方がいいかもしれない。
腰を上げて振り返ろうとした時、
「おっと、また変なことをしているね」
「ぐえっ……!」
兄の声が聞こえ、次いでアーダンの潰れたような声がした。
振り返ったら、案の定木の棒を持ったアーダンが兄に首根っこを掴まれていた。兄はいつものマントと肩当てを外し、上着だけになっている。
「子供だから大目に見てたけど、うちの弟に危害を加えるつもりなら私だって許さないよ。一体どういうつもりなの?」
「くそ! 放せよ! 大人が二人がかりでくるなんて卑怯だぞ!」
「後ろから無防備な人に殴りかかる方が、よっぽど卑怯だと思うけど」
「うるさい! アロイス兄ちゃんのこと悪く言うからいけないんだ!」
「……そんなの、一言も言ってないでしょうが。きみ、さっきからいろいろこじれまくってるよ。ちょっと冷静になったら?」
次いで兄は、やや呆れた目をこちらに向けてきた。
「というか、お前も何で反応しなかったのさ? まさか子供の気配を読み取れなかったわけじゃないよね?」
「いや……わかってはいたけど、ここはあえて引っ掛かってやった方が彼の気が済むかもしれないと思い……」
「……あのねぇ」
兄は完全に呆れてしまったのか、言葉も出さずこめかみを押さえていた。
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