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第1330話
アクセルは彼女が料理するところを隣で見ながら、しっかりとレシピを記憶した。
市場で食べた裏メニューの豆のスープには、最後のサワークリームが入っていなかった。それが味の違いになって、アロイスに「これじゃない」と言われてしまったのだろう。
――でも、もうレシピは覚えたからいくらでも自力で作れるな。
そう思いつつ、仕上がったスープを味見していると、
「……おい」
唐突にアーダンが話しかけてきた。今までこちらを敵視していたのに、向こうから近づいてくるなんて珍しい。
「どうしたんだ? 何か用か?」
「お前とあっちの青い方、強いのはどっちだ?」
「青い方って……」
アーダンの視線の先には、兄・フレインがいる。兄は小さな子供たちに囲まれており、マントを引っ張られたり武器を触られたりしていた。子供たちを見ててくれと言われて相手し始めたはいいものの、遠慮のない子供たちに兄も四苦八苦しているようだった。
アクセルは笑いながら答えた。
「もちろん兄上の方が強いよ。俺なんか足元にも及ばないくらい、すごい人なんだ」
「そうか。じゃあお前じゃなくてあいつに訓練つけてもらうことにする」
そう言ってアーダンは、兄に近づいて「おい、オレに訓練つけろ」とやや偉そうに頼んでいた。
いつもの兄なら二つ返事でOKしたはずだが、アーダンの頼み方があまりに上から目線だったせいか、
「……あのね、それは人にものを頼む態度じゃないよ。訓練つけて欲しいならもっとちゃんと頼んでごらん。それと、昨日アクセルに殴りかかったこと謝った? アクセルは許しても私はきみのこと許してないから、ちゃんと謝るまで訓練してあげないよ」
……と、訓練に入る前からダメ出しをしていた。他人様の子供なのに随分厳しい対応だ。
「……おい、断られたんだけど。お前の兄ちゃん、ケチだな」
アーダンが口を尖らせてこちらに戻ってくる。
すると母親がスープ鍋を掻き混ぜながら、更なるダメ出しをしてきた。
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