1337 / 2014

第1337話

 アーダンを始めとした子供たちは、念のために扉のところで様子を窺っている。特にアーダンは気まずかったのか何なのか、顔を出すだけで近づこうともしなかった。 「うわ……! とんでもなく大きな熊じゃないか。こんなのに襲われたらひとたまりもないよ。あんた達、よく無事だったね……」  倒れた熊の身体を見るなり、アニータがやや引いたような視線を送ってくる。  これだけの大物をたった二人(正確には兄一人)で倒してしまったこと、狩猟用の鉄砲どころか太刀だけで狩ってしまったこと、しかも怪我らしい怪我はひとつも負っていないこと。  これらの状況を目の当たりにして、アニータも「この人たち普通じゃない」と薄々気付いたのだろう。悪い言い方をすれば、化け物でも見ているような目をしていた。  ――普通の人にとっては、こんな俺でも化け物みたいに見えるのか……。  オーディンの眷属(エインヘリヤル)である以上、一定水準の実力を保持しているのは当然だ。人並みに強いのが普通なので、大きな熊を一頭倒した程度では自慢にもならない。  だけど一般的な村人からすれば、化け物じみた猛者に見えるのか。自分たちにとっては普通のことでも、村人にとっては普通じゃないのか。  同じ人間のつもりだったけれど、自分たちとアニータたちでは、住んでいる世界が全く違う……。 「驚かせてすみません。もう危険はないので大丈夫ですよ」  アクセルは穏やかに彼女に話しかけた。 「この熊は好きにしちゃってください。皮もたくさん取れますし、肉もたっぷりあります。保存食にでもするといいんじゃないですかね」 「ああ、そうだね……どうもありがとう」  少し戸惑っていたが、アニータは熊を捌く準備をし始めた。これだけの大物だから、ご近所さんにも手伝ってもらうのかもしれない。 「それじゃ、俺たちはこれで失礼します。お世話になりました」 「あっ……ちょっとあんた達!」  アニータが止めるのも聞かず、アクセルは兄の腕を引っ張って強引にその場から離れた。

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