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第1339話

 曖昧に返事をしていると、兄は淡々とした口調で続けた。 「強すぎる力は、時に恐怖の対象になるからね。お前は普通だと思ってても、一般の村人から見れば私たちは、とんでもなく強い存在なんだよ。そもそも私たちは人間ですらない。住んでいる世界も違うし、彼女たちとは全然違う生き物だと認識していいと思う。だからあまり気にしないようにね。もう地上に下りる機会もないだろうしさ」 「ああ、うん……。まあ、そこまで気にしているわけじゃないんだ。ただ、そんなに驚かれるとは思わなかっただけで」  アクセルはモヤッていることを口にした。気持ちはまとまっていなかったけれど、話しているうちにスッキリするかもと思ったのだ。 「俺、自分ではそんなに強くないと思ってたんだ。ヴァルハラにいたら俺くらいの人なんてゴロゴロしているし、刀で熊を倒すくらい誰でもできることだろうと。でもそうじゃなかったんだな。俺たちの力は一般の村人から見ればかなり特殊で、化け物みたいな強さだった。その認識の差が、結構な衝撃だったんだよな」 「そんなものだよ。ヴァルハラにいると忘れがちだけど、私たちは単体でも十分すぎるくらい強いから。怖れられるのはある意味当然さ。むしろ喜ばしいことかもね」 「……かもな。個人的には、兄上を化け物扱いされるのは心外だが」  アーダンなどは兄のことを舐めきっていたが、だからといって化け物のように怖れて欲しいわけではない。  実際に熊を倒したのは兄だが、熊一頭倒したくらいで変な目で見てくるのは単純に悲しかった。  こんなの鍛錬すれば誰にでもできることなのに、それを怖れるのはあんた達が弱いせいじゃないのか。自分たちが弱いのを棚に上げて、強い者を化け物扱いするのか。守って感謝されこそすれ、偏見の目で見られる筋合いはないんだが。 「いいんだよ、私は気にしてないから」  と、兄が軽く笑い飛ばしてきた。

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