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第1365話
「ま、いつもの話だよ。要は自分が優勝するために、セコい手を使ってくるヤツもいるだろうってことだ。優勝すれば、ワンチャン高ランクになれる可能性もあるからな」
「ええ……?」
アクセルはジークを見た。
毎度のことながら疑問なのだが、そんな方法で勝ち上がって何の意味があるのか。純粋な実力ではないのだから、挑戦状を叩きつけた相手に返り討ちにされるのが関の山である。
そんなセコい手を使うくらいなら、一秒でも長く鍛錬していた方がずっと有意義であろう。
眉を顰めていると、ユーベルが当たり前のような顔つきで諭してきた。
「世の中には、自分が強くなるより相手を追い落とした方が早いと考える人が大勢いるんですよ。誰もがあなたのように馬鹿正直に生きているわけではないんです。あなたもそろそろ学習なさい」
「それは……そう、なんですけど……」
「まあまあ。そういう素直なところがお前のいいところだよ。無駄にひねくれまくっているより、私は好きだな」
と、兄がフォローしてくれる。
「でも、だからと言って罠にかかるのは心配だから、今回もちゃんと気を付けるんだよ? 知らない人に話しかけられてもホイホイついて行かないこと。わかった?」
「わ、わかってるよ……」
客人の前でそんな風に言われ、ちょっと居たたまれなくなった。
恥ずかしくなってきたので、アクセルはすたこらとキッチンに戻った。
――しかし……また余計なところで気を張っていなければならないのは面倒だな……。
本当は純粋に鍛錬だけに打ち込みたい。トーナメントで優勝することだけを考えていたい。誰かが罠を仕掛けてくるかも……だなんて、警戒している余裕はない。
でも自分のことだから、何も考えずにいるとすぐに罠に引っ掛かってしまう。鍛錬に夢中になっていると、特に警戒心が薄れてしまう。
毎回兄に助けてもらうわけにもいかないし、なるべく自分でも気を付けなければ……。
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