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第1371話

 声がした方に顔を向けると、修験者のような見た目をした大男がこちらに視線を送っていた。普段はあまり絡みがないけれど、朝早くの市場で蒸かしたての饅頭を売っていたのを覚えている。 「ケ、ケイジ様……? こちらにいらっしゃったんですか……?」 「うむ。ここは人がほとんど来なくて快適なのでな。好きなだけ修行ができるのだ」  ……そりゃあ、こんな険しい道を乗り越えてまで訪れるような酔狂な人は、滅多にいないだろう。 「まあ、ここまでよく来たものだ。今日は好きなだけ鍛錬していくがよい」 「あ、ありがとうございます……。ですが、ここに辿り着く前に持ってきた水を全部消費してしまったので……。道中もなかなか大変でしたし、今日は見学だけさせていただきます」 「む、そうなのか。それなりに苦労をしたのだな」  あなたがこんなところに修行場を作らなければ、そこまで苦労はしなかったんですけどね……と、心の中でツッコむ。  そんなケイジは、それ以上構うことなく黙々と鍛錬を再開した。  巨大な丸太を三本担いだまま、光沢のある細い鉄棒の上を歩いている。しかもその下は深い落とし穴になっていて、殺意剥き出しの木の杭が何本も上向いていた。  ――うわあぁ……! これ、ほとんど拷問じゃないか……。  ハラハラしながらケイジを見守る。  一歩でも足を踏み外せば、下に真っ逆さまだ。丸太を担いでいるので普段より動きも鈍く、バランスを保つだけでも相当大変なのがわかる。しかも落下すればほぼ確定で死ぬという、とんでもなくスリル満点の修行だった。  冷や汗をかきつつ見学していたのだが、当のケイジは当たり前のような顔でどんどん鉄棒を歩いて行く。体幹がかなり強いのか、バランスの悪い場所を歩いていても全くぐらつくことなく、まるで平地を歩いているかのような安定感があった。  ――なんというか、普通にすごいな……。

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