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第1373話
「いや、構わぬ。世間が私を『修行バカ』と呼んでいるのも承知しているのでな。傍目にはさぞかし酔狂に見えていることだろう」
「……すみません……」
何も言えずに謝罪したら、ケイジは気にした様子もなく再び歩き始めた。やはりジュッ……という音が聞こえてくる。聞いているだけで痛々しい。
だが彼は、痛みを感じている様子もなく続けた。
「だが私は、己を磨くことこそが生き甲斐なのだ。自分はどこまで行けるのか、どこまでやれるのか。それを発見し、己を改善し、高みを目指していくことこそが愉悦なのだ」
「は、はあ……」
「そういう意味では、ヴァルハラの環境はとてもよい。どんな修行をしても咎められぬし、仮に死んでもすぐに復活できる。生前にはない絶好の環境だ。私にとっては極楽浄土よりも素晴らしい場所だ」
「そ、そうなんですか……」
確かにヴァルハラなら、修行している人を咎めるヤツはいないだろうし、棺に入れば全てチャラになる。命がひとつしかない生前と比べて、圧倒的に修行しやすくなったのは確かだろう。
「でもケイジ様なら、修行中に棺行きになるなんてヘマはしなさそうですけどね」
「そんなことはない。今でこそほとんどの修行に耐えられるようになったが、ここに来たばかりの頃は無茶な修行ばかりしてよく棺送りになっていたものだ。死合いでもないのにしょっちゅう棺に入れられるから、係の者に『ケイジ様専用棺』なるものを用意されたこともある」
「そ、そんなに……?」
「うむ。そのおかげで、棺のサイズが細分化し『XS~XL』まで増えたそうだ。その前は通常サイズしかなかったのでな」
「そうだったんですか……」
アクセルは平均的な体格だから通常サイズ(M)に入れられることが多いが、ミューみたいな小さい戦士はSサイズ、ケイジやランゴバルトのような大男はXLサイズの方が効率がいいのだろう。
最も、彼等ほどの強者はそもそも棺に入る機会も少なそうだが。
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