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第1377話
――これ……往復の登山だけでも結構な修行になるな……。
普段からみっちり鍛錬をしているつもりだが、歩き馴れない(かつ滑りやすい)岩山を登ると、いつもはあまり使わない筋肉を酷使する。明日には身体がバキバキになりそうだ。
オーディンの眷属 ともあろう者が慣れない鍛錬で筋肉痛なんて、かなりの不覚である。
「やあ、おかえり。無事に帰ってこられたみたいだね」
家に着いたら、兄が安心したような顔で迎え出てくれた。狩りの引率は無事に終わったみたいだ。
アクセルは鞄をリビングに放り投げ、キッチンに行って作り置きしていたハチミツ入りレモン水をしこたま飲んだ。修行場でボトルに詰めた水はとっくになくなっていた。
「おやおや……随分喉が渇いていたみたいだね。そんなにハードな鍛錬してたの?」
「いや、そういうわけじゃないんだが……途中で水が足りなくなったんだ」
「ありゃ。じゃあ今度はもっとたくさん水を持って行かないとダメだね」
「ああ、一本じゃ全然足りない。それこそ、荷台にたくさん水のボトルを詰んで行きたいくらいだ」
「そっか。じゃあ今度は荷台を転がしていくといいよ。私もハチミツ入りレモン水のストック、たくさん用意しとく」
「……いや、あの道で荷台を転がすのは不可能だから、ボトル三本分とかで全然OKだ」
そう言ったら、兄はきょとんとした顔になった。……何か変なことを言っただろうか。
「あの道って? お前、一体どこを通っていたの?」
「どこって……麓の修行場から続く道だよ。その道がとんでもない岩山になってて、鎖も取っ手もなしでフリークライミングする羽目になったんだ」
「ええ? 何それ? そんな険しい道あったかな……」
「あったんだよ。きっとケイジ様が途中の道に細工して、岩山をたくさん作ったんだろう」
すると兄は、ますます怪訝な顔をして首をかしげた。そしてこんなことを言い出した。
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