1392 / 2199
第1392話
「っ、あ……引っ掛かったか……」
何度目かの素振りで左の小太刀が丸太に引っ掛かり、木の皮が綺麗にこそげ落ちた。
以前より太刀筋はかなり整ってきたものの、まだ時々ブレることがある。何が起きてもブレない太刀筋を身に付けなければ、トーナメントを勝ち上がることはできない。
「……まだまだ」
引き続き、アクセルは両手の素振りを繰り返した。昼食前には、太刀筋矯正の丸太はだいぶボロボロになっていた。そろそろ新しいものに取り替えなくては。
「アクセル、お昼ご飯は何にする?」
家にいた兄が、ベランダからこちらに声をかけてきた。ちょうど古い丸太を担いで、家の裏手に運びに行くところだった。
「ああ、俺は特にこだわりはないぞ。兄上の好きなものを作ってくれ。ステーキのサンドイッチでもいいし」
「あ、そう? じゃあゴロゴロお肉のスープにでもしようかな。……ところで、さっきお友達と何を話してたの?」
「何って……」
「ほら、お前の同期の赤髪の子。庭に来てたじゃない」
「……チェイニーな。別にたいしたことじゃないよ。トーナメントで当たったらお互い本気で戦おうなって、約束しただけだ」
チェイニーが勝ったらデートする……っていう条件はあるけど、と心の中で付け足す。これを兄に話したら面倒なことになりそうなので、とりあえず今は黙っておいた。
「ふーん、そっか。まあいいや。とりあえず私はサクッと昼食作っちゃうから、お前はそのまま鍛錬しておいで。できたらまた声かけるからさ」
そう言って、兄は再び家の中に引っ込んだ。
残されたアクセルは、丸太を新しいものに取り替えながら考えた。
――まあ、必ずしもチェイニーと戦えるわけじゃないんだけどな。
自分がチェイニーと戦うには三回トーナメントを勝ち進まないといけないし、チェイニーの方も同様である。お互い勝ち進んでようやく戦えるわけで、その前で負けてしまう可能性もゼロではないのだ。
ともだちにシェアしよう!