1405 / 2014

第1405話

 同時に生々しい臭いが鼻をつき、思わず鼻を押さえそうになった。  狂戦士モードでいると、嗅覚も普段より鋭くなる。それが今のアクセルには逆効果になっていた。  人肉が焼ける臭いは精神衛生上よろしくない。この臭いが強烈であればあるほど、自分の命が漏れ出ていっている気がする。早く砂を渡り切らないと、足元から燃え尽きてしまいそうだ。  そんなことになったら、さすがに棺に入っても復活はできない。骨だけの状態では蘇生するのは不可能だ。  ――余計なことを考えるな……! とにかく平常心でいないと……!  集中力を保つべく、アクセルは気合いを入れ直した。  あと少し……あと少しで終わる……! あと五メートル……三メートル……。 「や、やった……!」  どうにか砂を渡り切り、安堵の息を吐く。  自分にはなかなかキツい修行だったが、無事にクリアできてよかった。これで自分も、少しは狂戦士モードを保てるようになっただろうか……。 「……ぎゃあッ!」  だが次の瞬間、急に足元から耐え難い激痛が襲ってきた。  立っていられず、がくりと膝をつき、その場に倒れ込んで悶絶する。 「う、ぐ……あ……」  文字通り、焼けるような痛みだった。足の裏から足首辺りがジリジリ焼け、その痛みがじわじわと這い上がってくるような感覚がする。これなら、足を切り落とされた方が数倍マシに思えてきた。 「ああホラ、終わったからって気を抜くから……」  兄が駆け寄ってきて、すぐさま助け起こしてくれる。 「よしよし、じゃあお兄ちゃんが泉に連れて行ってあげるよ。それまで少し我慢していなさい」 「う、う……」 「なるべく早く運んであげるからね」  そう言って兄はこちらを背負い、持ってきた荷物を全部担いでさっさと下山し始めた。  兄自身も足が焼けているはずなのに、来る時と歩くスピードが全く変わっていない。こんな状況でも、狂戦士モードを継続できているということだ。

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