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第1442話
「作り置きしようかとも思ったんだが、今から大量の食事を用意している時間はない。もっと早く気付けばよかったけど、トーナメントのことで頭がいっぱいで……そこまで気が回らなかったんだ、ごめんな……」
「ぴ……」
「だから本当に申し訳ないけど、もし俺が夜になっても帰って来なかったら、その時は山に里帰りして欲しいんだ。……いや、もちろん帰って来られるように頑張るけど、今日の相手は俺より格上だからさ。勝てても無事でいられる保障はないから……」
「…………」
「本当にごめん。いろんなところに気付かないダメな飼い主で。帰ったら美味しいご飯いっぱい作るから、今回は……」
「ぴー……」
ピピはやや不満げに鳴いた後、うさぎ小屋に引っ込んでくるりと丸くなってしまった。これはご機嫌ナナメの証拠である。そりゃそうだ。いつもいつも後回しにしがちで、本当に申し訳なく思う。
――ピピのためにも、絶対に生きて帰ろう……。
そう固く心に決め、アクセルは仕度をして家を出た。
スタジアムの戦士専用口から中に入り、控え室に荷物を置いて愛用の武器を腰に下げる。
「…………」
スタジアムからは観客の歓声が聞こえてくる。今行われている死合いが終わったら、次はいよいよアクセルの番だ。
――ああ……だんだん緊張してきた……。
アクセルの場合、スタジアムに入る直前が一番緊張する。いざ死合いが始まると緊張も忘れて無我夢中で戦ってしまうのだが、それまでは変な汗と震えが止まらなくなるのが常だった。
「それは武者震いって言うんだよ」
と、以前兄が教えてくれたことがある。
「戦いの前に心が高揚すると、誰でもそんな風に震えることがある。戦士の血が騒ぐというか、緊張とはまた違った震えなんだよね」
「そうなのか? 兄上でも震えることがあるのか?」
「もちろんさ。どんな死合いができるのかなぁって、考えるだけでワクワクするもんね。命を賭けたギリギリの戦いは、何回経験しても興奮するよ」
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