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第1443話

 そう言いつつ、兄は楽しそうに笑っていたものだ。  ――まあそうだよな。それでこそ、ヴァルハラの戦士というものだ。  一度戦い始めると、相手が誰であろうと嬉々として武器を振るってしまう。最初は緊張していても、戦闘に入った途端我を忘れて熱中してしまう。死ぬことなど恐れない。  そういう素質があるからこそ、こうしてヴァルハラで生きていられるのだろう。 「……よし」  ひとつ前の死合いが終わったので、いよいよ自分の番となった。  アクセルは控え室のベンチから立ち上がり、スタジアムの入場口から戦いの広場に出た。  反対側の入場口からは、ハンマーを持ったおしゃれ髭のショーンが出てくる。  観客の熱気は十分高まっており、始まる前から怒号や怒声が飛び交っていた。 「おい今度は面白い死合いやってくれよ!」 「さっきはつまんねー死合い見せやがってよー!」 「どうせなら、お互いボロボロになるまで戦えよなー!」  おおまかにこんな感じの怒号が聞こえてきたので、前の死合いがあっさり終わってしまったことが想像できた。スタジアムも比較的綺麗なままだし、おそらくものの数分で決着がついてしまったのだろう。 「……だそうだ。不戦敗にしなくてよかったかもな」  と、ショーンがハンマーを担ぎながら言う。 「いい死合いができるのを期待してるぜ」 「こちらこそ、よろしくお願いします」  ぺこりとお辞儀をし、アクセルは所定の位置についた。ショーンも数メートル先に立った。 『ただ今より、第一回トーナメント・グループD・初戦二組・第三死合い・アクセルVSショーンを行います』  天からヴァルキリーのアナウンスが聞こえてきた。同時に観客も静まり返り、一気に緊張感が高まる。  アクセルはそっと自分の愛刀に手をかけた。  ――大丈夫、やれる。  兄は見ていなくても。格上の戦士が相手でも。全力で戦って勝利を掴み取ろう。  そして復活した兄に報告するのだ。あなたの弟は、一人でもちゃんと頑張ってきましたよ……と。

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