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第1455話

 待ってくれ、と叫ぼうとしたのに、何故か声が出なかった。  嫌だ! 行かないでくれ兄上! 俺はもう、二度とあなたと離れたくないんだ! あなたと離れて過ごさなきゃいけないなら、俺はずっと弱いままでいい!  何か気に障ることをしたなら謝るから、離れるなんて言わないで……! 「兄上っ!」  冷や汗をかいて飛び起きたら、自分の寝室とは違う場所にいて余計に混乱しかけた。  ――あ、あれ……? ここは……。  周囲にはたくさんの棺が並べられている。それでようやく、自分がオーディンの館にいることに気付いた。  急に飛び起きたせいか、棺係りが怪訝な顔でこちらを見ている。  ――う……めちゃくちゃ恥ずかしい……。  この分では、「兄上!」と叫んだのも聞こえてしまっていただろう。いい大人の男が恥ずかしすぎる。  アクセルはそそくさと棺を出て、逃げるようにオーディンの館を後にした。  早足で家に帰り、庭から敷地内に入って最初にピピの小屋を確認する。  ――ああ……やっぱり里帰りしちゃってるか……。  無事に帰って来られなかったことが悔やまれる。何日棺に入っていたのかは知らないけど、ピピがいないということは、少なくとも丸一日は誰も帰って来なかったということだろう。  というか、ショーンと自分、結局どちらが勝ったのだろうか。自分も途中で力尽きて倒れてしまったから、ヴァルキリーの判定は耳に入らなかった。  どうせなら世界樹(ユグドラシル)に寄って、結果を確認してきた方がよかったな……。 「おや、帰ってきてたのかい? おかえり、アクセル。死合いお疲れ様」  兄が家から出てきた。三日ぶりくらいに顔を見たが、アクセルにとっては随分久しぶりに思えた。 「兄上……!」  いても立ってもいられず、アクセルは兄に飛びついた。目覚める直前に変な夢を見ていたせいで、余計に兄が恋しくてたまらなかったのだ。

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