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第1477話
それだけ言って、ミューはさっさと立ち去ってしまった。
今まで黙ってやり取りを見守っていた兄は、やや苦笑して顎に手を当てた。
「ホント、マイペースな子だねぇ? ある意味、ミューが一番ヴァルハラの生活を楽しんでるかも」
「……兄上も似たようなものだろ。さて、そろそろ戻るか」
アクセルは兄と一緒に家に戻った。
そこから夜まで庭で簡単な鍛錬をし、その日は普通にベッドに入った。
***
次の日。身体の調子が戻ったのでようやく本格的な鍛錬ができるようになった。
――第二死合いは確か一週間後だったな……。
そして三日後にはコニーとレンジ、どちらと戦うかが決定する。それまではどちらにも対応できるように、基本的な鍛錬を重点的に行うつもりだ。
「ねえ、昨日ミューからもらったキャンディーどこやった?」
庭で素振りをしていたら、兄がそんなことを聞いてきた。
アクセルは少し手を止めて、答えた。
「空き瓶に入れてキッチンの棚に保存してあるぞ。何でだ?」
「あれ、ひとつもらっていい? これから仕事だからさ、ちょっと元気を出したい気分なんだ」
「え、仕事なのか? 何の?」
「簡単な狩りだよ。たいした仕事じゃない」
「そうなのか。じゃあ気を付けていってきてくれ」
兄を見送り、アクセルは素振りを再開した。
そこから一時間ほど鍛錬を続け、一息つこうか……と思ったところでふと、キャンディーのことを思い出す。
――そういや兄上、「今日は元気を出したい気分」って言ってたな……。
深く追求しなかったが、そんなに元気が出るものなんだろうか。普通のキャンディーだと思っていたけれど、もしかして何かこう……特別な効果のあるキャンディーだったりするのだろうか。
試しにアクセルは、例のキャンディーをひとつ口に入れてみた。
「? これは……」
ハチミツの味だな、と思った。たまにトーストに塗って食べるヴァルハラのハチミツと同じ味がする。
それ以外に変わったところはなく、口に入れて五分くらいで全部舐めきってしまった。
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